環境質リスク管理研究室

現在の主な研究テーマ

雨と水環境

image

関連する過去の論文・研究プロジェクト

Watanabe H. et. al.: Application of whole sediment toxicity identification evaluation procedures to road dust using a benthic ostracod Heterocypris incongruens. Ecotoxicol Environ Safety, 89, 245-251, 2013. [DOI]

Kyoshiro Hiki and Fumiyuki Nakajima: Effect of salinity on the toxicity of road dust in an estuarine amphipod Grandidierella japonica, Water Science and Technology, Vol.72, No.6, pp.1022-1028, 2015. [DOI]

H17「都市水環境中に排出される粒子付着有害物質の生態毒性評価」(研究代表:中島)

研究の方向性や手法

 雨は水環境に様々な物質を運搬します。都市域では晴天時に堆積した都市表面の物質が雨とともに流出しますが、道路上の塵埃は様々な有害物質を含んでおり、その影響や溶出動態は未解明な点が残されています。浸水を起こさないように雨水を排除し、また一方で有効に水資源として生かし、含まれる有害物質を適切に管理する、といったバランスよい都市雨水管理をどのように実現するか、ともに考えましょう。中島は国際水協会の都市雨天時排水専門委員会の日本代表委員をH23年から務めており、若い皆さんが日本のこの分野を牽引してくれることを大いに期待しています。

水生生物、特に底生生物

image

関連する過去の論文・研究プロジェクト

Sevilla J.B. et. al.: Comparison of aquatic and dietary exposure of heavy metals Cd, Cu and Zn to benthic ostracod Heterocypris incongruens. Environ Toxicol Chem, 33(7), 1624-1630, 2014. [DOI]

Chaminda G.G.T. et. al.: Metal (Zn, Cu, Cd and Ni) complexation by dissolved organic matter (DOM) in wastewater treatment plant effluent. J Water Environ Technol, 11(3), 153-161, 2013. [DOI]

H24-26「河口域での底生甲殻類の餌生物摂食に伴う重金属の生体移行性に与える溶存有機物の影響」(研究代表:中島)

研究の方向性や手法

 水生生物保全については、H24年度に2つの環境基準が追加され、H25年度末には要調査項目の大幅な見直しもなされました。また排水管理手法として生物応答試験法(WET)の導入も検討されています。しかし、環境中の有害物質(特に重金属類)の存在形態や、底質と底生生物の扱い、水由来曝露と餌由来曝露の違いなど、基本的な科学的知見の積み上げがさらに必要とされています。国内ではあまり例が多くない底生生物を用いた毒性試験と、分析機器を駆使した化学物質動態の解明、さらにそれを現場環境に適用するためのモデル計算など、多面的な取り組みが求められています。

水環境のあるべき姿?

AU155
AU151

関連する過去の論文・研究プロジェクト

日置ら:陸域からの栄養塩負荷が東京湾の炭素固定に与える影響~内湾複合生態系モデルを用いた解析~、第48回日本水環境学会年会講演集, 359.

Tomohiro Kuwae, Jota Kanda, Atsushi Kubo, Fumiyuki Nakajima, Hiroshi Ogawa, Akio Sohma and Masahiro Suzumura: Blue carbon in human-dominated estuarine and shallow coastal systems, Ambio, Vol.45, No.3, pp.290-301, 2016. [DOI](open access)

H24-26「都市型ブルーカーボン:新たな沿岸海域炭素循環像の構築」(研究分担:中島)

研究の方向性や手法

 高度成長期に確立されてきた環境管理のあり方は、地球環境問題が重要視され人口が減少しつつある現在の日本で見直す必要はないのでしょうか?水環境の「目的」をどのように設定し、どのように管理していくべきなのか、たとえば、CO2吸収を促進させるような沿岸域を構築することは可能なのだろうか、そのために解明すべき現象、克服すべき社会的問題は何なのか、といった切り口で、将来を見据えた議論を始めてみませんか? 現場調査と室内実験をベースにした現象解明と、それを導入した水質シミュレーションとシナリオ解析から、研究を進めたいと思います。

膜を用いた下水処理技術

image  既存の水システムを見直し、都市内に持続型水資源を確保し、環境と共生しつつ賢く水を使いまわす水システムへの革新が強く求められています。再利用のための水のリスクを制御し、安全と安心を担保する水再生技術として膜技術、中でもMBRが注目されています。浸漬型MBRは、25年程前に本研究室で開発され、現在排水の高度処理・再生利用の用途に世界で広く適用されてきていますが、水質が良くてもエネルギー多消費であったり、微量化学物質の環境への拡散の懸念を払拭できる技術としては不十分であったり、その潜在的可能性に比して現状技術は「持続可能な」技術というには未熟と言えます。本研究室では、従来のエネルギー消費型の下水処理システムからエネルギー・資源創出型のシステムへの転換を目指し、様々な要素技術等の開発を進めてきました。そのうち、傾斜管付きMBR(itMBR)については、創エネルギー型システムの中核となるプロセスとして、コンパクトかつ徹底的な省エネルギーを達成するための開発を進めています。

微生物からみた処理

image  例えばMBRにおいて、水中の溶存有機物の除去の中核を担っているのは汚泥中の微生物です。水相の溶存有機物(の大部分)が生物学的変換を受けて気相(CO2)および固相(菌体)へと移動し、固相の有機物が膜濾過により処理水から除去されます。他にリンや窒素といった栄養塩も適当な条件を設定することで大部分を除去することができます。これらの処理方法は、活性汚泥内微生物群集を一つのブラックボックスとして扱い、長年の経験的な知見の積み重ねにより処理技術として確立してきました。しかし例えば、もっと処理の効率を上げたい、特定の反応をコントロールしたい、といった場合に、また経験的な知見の積み上げを待つしかないのでしょうか?もし、どのような微生物がどのような条件でどのようにして特定の反応を担っているのか、を詳細に知ることができれば、もっと直接的な、また革新的な制御方法を見いだせるかもしれません。

微生物群集を解析する

image  どの微生物が何をしているかを知る、というのは簡単ではありません。活性汚泥1 ml中には10^8個以上の細菌細胞が存在し、また数千もの細菌種が存在しています。細菌1個を直接目で観ることはできないし、顕微鏡で観察しても細菌の形態的特徴のみからどの細菌種かを特定することも困難です。また環境中に存在する微生物のほとんどは人工的環境で分離培養することが出来ないと言われており、直接その機能を知ることができるのは分離培養可能な一部の微生物のみです。このような限界があるのですが、近年の分子生物学的手法(主にDNAやRNAといった生体分子を対象として行う解析手法)の発展により、遺伝子情報に基づいて、環境中に存在する微生物種やその機能について(ある程度)知ることができるようになりました。とはいえ、まだ手法的な制限により解明できない部分はたくさんあります。また、手法をもっと“手頃”なものに改良する、というのも工学的にとても重要です。

その他これまでに進めてきたテーマ

次世代メンブレンバイオリアクターの開発

第2世代といわれる浸漬型メンブレンバイオリアクターは、20年程前に本研究室で開発され、現在排水の高度処理・再生利用の用途に世界で広く適用されて 来ていますが、上記目的を達成するためにはさらに技術を進化させなければなりません。本研究室ではメンブレンバイオリアクターシステム開発における世界の 中のパイオニアとして、以下の次世代技術を開発中です。

  • 浸漬型ナノ濾過メンブレンバイオリアクター(オールインワン超高度処理プロセス)
  • 生ごみ・トイレ排水・汚泥のメタン発酵を組み込んだメンブレンバイオリアクター排水廃棄物処理システム(将来の燃料電池システム利用を見込んだエネル ギー回収とオンサイト地下水涵養装置)
  • 汚泥発生量を最小化する傾斜板導入メンブレンバイオリアクターシステムによる既存下水処理場の再生
  • 高集積浸漬型メンブレンモジュールの開発及び染色工程廃水処理用メンブレン菌類リアクターの開発

有害廃棄物のオンサイト安全化処理技術開発

小規模事業所、大学等の研究機関、排ガス処理工程等から発生する液状有害廃棄物の処理、汚染土壌の浄化のための原点(オンサイト)処理技術の開発を行 なっています。液体と気体と区別のつかない超臨界流体(水や二酸化炭素)を酸化分解や抽出の媒体として利用する物理化学的方法や、微生物を利用するバイオ レミデイエーション技術などが研究開発のターゲットとなります。現在研究を進めているテーマを以下に示します。また、環境安全研究センター柏支所にある実 規模システムを利用した研究開発も行っています。

  • チタン酸塩触媒in-situ生成機構を利用した超臨界水・亜臨界水サイクルによる有害有機物質の完全分解と脱塩の同時処理法の開発(モバイル・デスク トップ型処理装置の開発)
  • 超臨界二酸化炭素を利用した汚染土壌から多環芳香族炭化水素等の抽出及びその連続分解処理法の開発(新領域大島研究室との共同研究)
  • 有害固形廃棄物・汚染土壌のメカニカル処理
  • 混合微生物群を利用した汚染土壌におけるベンゼン及びダイオキシン類分解(矢木研究室との共同研究)

太陽と池を利用した有機性排水の再資源化

タイのカセサート大学との・、同研究で、タイの首都バンコクにある製麺工場廃水の処理を光合成細菌を用いて行なってきました。嫌気性池の技術革新を狙った もので、学生が現地に長期滞在し研究を遂行したものです。現在もカセサート大学で継続して研究を続けています。

廃棄物管理に関する調査研究

原点管理として東京大学における廃棄物管理システムの構築のための調査研究(横山環境安全研究センター助手との共同研究、システムは実現済み)や、含有 有害物質に注目したパソコンリサイクルに関する調査研究、一般廃棄物の首都圏広域輸送システムに関する調査研究等を実施してきました。現在は、タイにおけ るWTE(廃棄物からのエネルギー回収)としての新技術導入の可能性に関する調査研究や日本におけるプラスチックのリサイクルに関する調査研究を行なって います。

ヒ素汚染物質の安定化

バングラデシュは国土の8割の土壌が高濃度にヒ素を含んでおり、それによる地下水汚染は深刻です。タイ、ネパール、中国、メキシコなども同様な問題があ ります。本研究室では微生物によるヒ素汚染物質の安定化技術の開発を行っています。これはヒ素メチル化微生物(AsMB:当研究室により命名)が土壌や汚 泥中のヒ素をより毒性の低い気体状のヒ素に変換することを利用し、汚染された物質よりヒ素を除去する方法を開発しているものです。同時にヒ素汚染地域(主 にタイとバングラデシュ)の調査や安全な飲料水供給のための簡便な浄化システムの普及活動も行っています。

健康リスクアセスメント研究

都市における空気環境悪化は主に自動車排気ガスに由来する物質によって起こる場合が多いと言えます。本研究室では東京やバンコクなどのアジアの大都市圏 における空気環境状況を調査し、様々な気候や交通条件との因果関係を解析し、アジアの持続的な都市開発における低リスクかつ快適な交通政策等の提言などを 目指しています。具体的には、以下の研究テーマで研究を進めています。
-植物の葉を用いたコメットアッセイによる遺伝子損傷性試験による人間居住スケールでの大気環境質評価とその応用
-タイ・バンコク沿道環境における粒子付着多環芳香族炭化水素の連続モニタリングと運命解析(タイ・チュラロンコン大学との共同研究)

Top